ニコちゃん備忘録

消化しきれない、もしくは覚えておきたいアレやコレたち

ニコちゃん語録

 母が兼業で行う商品販売の、その会社の新社長の就任式典とパーティーで店を空けた。私は誰もお客さんのいない店の店番をしながら、ゴロゴロと雷の鳴る空を見ていた。数ヶ月前の、豪雨を思い出す。ビショビショになって、迎えに行って、帰った日。

 ニコちゃんを迎えに行こう。ふいに思い立って行動する。いつもは四時半に迎えに行くのに、二時十五分に保育園に電話をして、二時半に迎えに行ってもいいですか、と問う。電話の向こうの、園長先生の戸惑う気配。

 それでも、ワガママに、強引に迎えに行くことを伝えた。まだ雨は降り始めただけだ。降っているかどうか分からないくらいのフロントガラスについた水滴をバンパーで拭うこともせず、保育園に向かう。今にもバケツをひっくり返すような雨が降り出しそうな、黒く重たい雲を目の端に捉えながら、早く、早くと車を走らせる。

 保育園に着いた時は、まだ傘がいらないくらい。風が強い。急ぎ足で保育室に向かう。ニコちゃんだけが立って、着替えさせてもらっていた。お昼寝の時間は二時四十五分までで、まだ室内は暗かった。

 「すみません、急にすみません。」何度も謝りながら、本懐を遂げようと急ぐ。園を出ると、段ボールが十メートル、二十メートルほど舞い上がるような突風と、横殴りのやや激しい雨。台風か、と思わず突っ込みたくなった。傘は意味をなさない。傘を閉じて風の吹き付ける進行方向に背を向けて、後ろ歩きで前にニコちゃんを抱きしめて車に向かう。ニコちゃんは「怖い〜!」と泣く。大丈夫だからね、となだめすかして車に辿り着く。

 車の右後ろのスライドドアを開けると、ニコちゃんをチャイルドシートに乗せる。母が式典に行くのに車を使うのでチャイルドシートを乗せかえた、臨時の車。風は反対方向から吹き付けるので、車のこちら側は雨に濡れない。

 無事に車に乗り込み、出発すると、ニコちゃんは「風すごかったねぇ」と言う。まだ二歳の子供なのに適切に状況を述べるのが面白くて、半分笑いながら凄かったねぇ、と調子を合わせて答える。

 ニコちゃんの保育園のオムツのゴミを、框から土間のゴミ箱に向かって放り投げると、「お外ポイしたらダメよ。」どこでそんな言葉とマナーを覚えたのか。私なのか。それならばブーメランである。